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「戦場のメリークリスマス」

ふと思い立ち、「戦場のメリークリスマス」のDVDを見ました。じつに37年ぶりです!
「戦メリ」は大島渚監督で、デビッド・ボウイや坂本龍一、北野武、内田裕也などが出演しています。1983年作。
戦めり

ストーリーは1942年、ジャワ(インドネシア)の日本軍俘虜収容所で、所長のヨノイ大尉(坂本龍一)と、英国軍人俘虜のセリアズ少佐(デビッド・ボウイ)が出会い、互いに魅かれ合うが、過酷な戦争のさなか、二人は引き裂かれてしまいます。
デビッド・ボウイは35才ぐらい、坂本龍一30才ぐらい、若きアーティストが美しく、戦争の悲惨さを引き立てます。
デビッド・ボウイのオッド・アイが美しい。
オッド・アイとは、日本語では「虹彩異色症」と称し、左右の目の色が違うこと。ボウイは右目がブルー、左目がヘーゼル(淡い褐色)です。猫でいうと「金目銀目」ですね。猫では時たま見かけますが、人間のオッド・アイをしげしげと見たのは初めてでした。
フレディが「ファッション・エイド」で共演した女優のジェーン・シーモアもオッドアイでした。
オッドアイ

戦争映画としては、戦闘シーンはないのですが、俘虜収容所の過酷な状況が描かれ、男ばかりの世界なので、兵士同士のホモセクシュアルな関係も包み隠さず表現されています。(ただし、露見すると処刑されてしまいます)
ボウイと坂本は、敵味方を越え、人種、国籍、文化の違いを越えて魅かれ合うこともあるのだという証明になっています。
ボウイは極限的な状況において、我が身を捨てて坂本を抱擁しますが、坂本は軍人として自分の気持ちを露わにすることはありません。
(ボウイはセリアズ、坂本はヨノイなのですが、どうしてもボウイと坂本にしか見えず、ボウイが殴られると「ボウイを殴るな〜〜!」と思ってしまいます)

セリアズのボウイは、「兵士の中の兵士」と言われ、仲間からの信頼も厚く、最後は俘虜のリーダーを助けるために、己の命を差し出してしまいます。
ヨノイの坂本は、日本の帝国軍人らしく、ストイックで剛直な精神を持ち、規律正しく軍と国家のために尽くし、自己鍛錬を怠らず、俘虜には厳しく当たります。
ハラ軍曹の北野武も、粗野な性格ではありながら、純朴で善良な日本人を体現しています。
つまり登場人物がみな「純粋」で「正直」なのですが、それゆえに戦争に対しても忠実に尽くしてしまうところが哀しい。
37年前に見た時は、戦争の残酷さが印象に残りましたが、今回見てみると、純粋な人間の悲しさが心に沁みました。
37年前の初回バージョンでは、流血も生々しかったのですが、DVDでは血が流れないので、残酷さが軽減しているのかもしれません。
私たちも戦争の時代に生を受けていたらどうなっていたか? 純粋であればあるほど、戦争の犠牲になりやすいのではないでしょうか?
ボウイも坂本も皆、戦後生まれであり、ミュージシャンであるというのに、よく軍人の演技ができるものだと感心します。
ヨノイ

坂本龍一が帝国軍人として、「八紘一宇」の額を掲げ、剣道の稽古に励み、武士道の精神に邁進する姿や、北野武が死んだ兵士のために読経する声は、映画が公開された海外諸国の観衆に対して、日本人の姿を印象付けたことでしょう。
ハラキリの場面は何度も出てきますし、坂本は日本刀を振り回しています。
この映画は日本と英国、ニュージーランド(ロケ地)の共同制作なので、多くの外国で上映されました。
坂本が扮するヨノイは、「2.26事件の時に満州にいたので、決起に参加できなかったため死に遅れた」人物という設定で、三島由紀夫の姿が二重写しになっています。1983年公開ですから、1975年の三島の自決がまだ世界でも記憶に新しい時代です。
(ちなみに自決とは、「後世の人間に対して、恨みを言い残す行為」だそうです)

つまり何が言いたいかというと、フレディもこの映画を見たはずだということです。
フレディにとっては、友人のボウイが出ているし、ホモセクシュアルも扱っているらしいし、日本文化に興味があるし、三島由紀夫の自決の記憶もあるし、それじゃ見てみようか、ということにならない訳がないじゃないですか。
そしてこの映画の日本人像から、日本人のイメージを受け取ったことでしょうが、実際に日本へ来てみると、こんな日本人はどこにいるんだろう?と思ったのではないでしょうか。
1983年公開の「戦メリ」を見たことが、1986年来日の爆買いツアーにつながった可能もあるのではないか?と思います。
フレディが日本のボディガードに日本刀を贈った話は有名ですが、これも坂本龍一が振り回す真剣の影響を受けたのではないか?というのは考えすぎでしょうか?
ゴーインバック

じつは私は子供の頃、坂本龍一と接近遭遇したことがありました。
坂本くんは父の教え子だったので、千葉の海の保養所にいた時に、父に挨拶に来てくれたのです。
「坂本です!」と言った坂本くんの声は憶えています。私は小学生だったので、彼は全然覚えていないでしょう。
家も近かったので、中学校も同じでした。学年は違いますが。
「戦メリ」で坂本氏は英語を話していますが、あの英語の基礎を教えたのは私の父なのです、というのは自慢しすぎですが。
あの坂本くんが、本当にすばらしく成長されたことを嬉しく思います!

大島渚が起用するキャストの選定は、1に素人、2に歌うたいだそうですが、デビッド・ボウイはリンゼイ・ケンプに師事してパントマイムを習得していたので、役者としても慣れたものです。
一方の坂本は、やはり演技は生硬なものの、音楽はすばらしく、「戦メリ」の音楽は彼の最高傑作なのではないでしょうか?
彼のライブを見たことがありますが、戦メリのテーマをピアノで思い入れたっぷりに演奏していました。
そしてもう一曲、ボウイの弟がボーイソプラノで歌う歌が最高に美しい! 「Ride Ride Ride」
私はこの曲の楽譜を見て驚嘆したことがあります。
この曲があるからこそ、映画「戦メリ」は単なる戦争映画ではなく、人間精神の純粋さ、崇高さを伝えることに成功したのです!
坂本龍一は、日本が世界に誇る音楽家だと思います。

「戦メリ」のキャストについては、はじめはロバート・レッドフォードと沢田研二の案もあったそうです。
この二人の戦メリも見てみたかったですね。
ロバート・レッドフォードは、台本を読んで「なぜこの場面で日本人が死ぬのかわからない。これでは観衆の理解を得られないだろう」と言って断ったそうですが、日本には「恥の文化」というものがあり、日本の武士や軍人は恥のために死ぬということを知らなかったのですね。映画というのは、自国の知っている文化だけを扱うのではなく、他国の知らない文化についても理解しようとするものではないのでしょうか?

戦争を知らない若い世代には、いちど「戦メリ」を見ることをおすすめします。
戦争は絶対に繰り返してはならないと思います!


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ペリさんの記事を読んで猛烈にこの映画を見たくなり、早速Amazon primeで見てしまいました。37年前まだ中学1年生だった私は厳しい親の目を盗んで友人と映画館に見に行きましたが、まだ同性愛のなんたるかもわからず、ほとんど何もわからずに見ていたと思います。ただただビートたけし演じるハラ軍曹の狂気じみた振る舞いが怖かった印象です。
こうして37年ぶりに見る機会を得て当時よりは理解できることもあり楽しめたかなと思いますが、ペリさんが書かれているように、坂本龍一演じるヨノイ大尉のモデルは三島由紀夫なんだろうと思われるのが大発見でした。
それにしても35歳のデヴィッドボウイのカッコいいこと❗️ヨノイ大尉じゃなくてもハグされてキスされたら失神するかもしれませんね⁉️
戦メリはアンダープレッシャーの2年後の作品ですから、フレディもきっとこの頃のボウイさんにキュンキュンしてたんじゃないかなーなどと妄想を膨らませてしまいました。

Re: タイトルなし

aki様
コメントをありがとうございます。
戦メリをご覧になったのですね!
当時中学1年生でいらしたとのこと、ずいぶん衝撃だったのではないでしょうか!?
ハラ軍曹がこわかったですよね。いま見るとタケシが若くてかわいいですが。
同性愛については淡く描かれていますが、軍隊は男ばかりなので、かなりの事例があったのではないかと思われます。
最近、山岸凉子の「日出ずる処の天子」を初めて読んだのですが、こちらの方が同性愛がどぎつくて驚きました。兄妹の近親双姦やロリコンやら、何でもありですごかったです。これが少女漫画とは思えないラジカルさ!
この漫画も37年ぐらい前です。
戦メリはアンダープレッシャーの2年後なのですね。当時は面白い作品が色々とありました。この頃はどうなんでしょうね?

No title

コメントへの早速の返信ありがとうございます❗️
まだ書き足りない事があり、再びすみません。
当時はハラ軍曹が怖いだけだったけれど、今見てみると彼はただ忠実に軍隊の規律を守ろうとしていただけなんですよね。心の中には優しい気持ちも持っているにもかかわらず、軍隊の規律と自己の信念が同化してしまうのが怖い所ですが。そして、その規律から少し外れた所で芽生えたローレンスとの友情が、ヨノイとセリアズとの関係と並ぶ見どころだったのですね。37年経った今ようやく少しは理解しながら見ることができたと思います。きっかけを頂きありがとうございました。
大島渚監督についても、酔っぱらって水上勉と喧嘩ばかりしてる怖いおじさんというイメージしかありませんでしたが、今回その評価が改まりました。(無知ゆえに生意気言ってすみません❗️)
そして突然、山岸凉子の「日出ずる処の天子」が出てきたので嬉しくなってしまって❗️😄この漫画は高校生の時、興味のない授業中に夢中になって読み耽っていました。それから、中学生の時は魔夜峰央の「パタリロ❗️」です。今のように腐女子などという言葉はなかったので全く自覚は無かったですが、完全にそうだったと、今は思います。だからボヘミアンラプソディーを見て、フレディに夢中になってしまったのも当然といえば当然だったのでしょう。

Re: No title

aki様
お返事が遅れて申し訳ありませんでした。
そうなんです、若い頃に見たり読んだりしたものが、当時はあまり理解できていなくて、年を経ると次第に理解できるようになるというのが面白いですね。若い人からみると、年寄りはつまらない存在かもしれませんが、やはりなるべく長生きはするものだと思います。年を重ねるほどに豊かな人間になりたいものですね。
私から見ると、aki様は一回りお若いので、ぜんぜんお若い方ですが!
 山岸凉子に続いて、いま池田理代子の「聖徳太子」を読んでいます。山岸凉子はファンタジーが豊かで、脚色が多いですが、池田理代子の方が歴史に忠実なのかもしれません。少なくとも、聖徳太子には4人の妃がいて、子供も沢山いるので、同性愛者ではないと思うのですが?
BLが好きな人のことを腐女子というのですね。BLならいいけど、オッさん同士になるとちょっとね・・・
年取った腐女子を「貴腐人」というそうです。まあ貴腐ワインみたいでいいですけど。
フレディがBL好きの対象になるのかどうかはよくわかりませんが、フレディは女性が苦手だっのでしょうか?
山岸凉子の厩戸皇子は母親との愛着障害があり、フレディも同様でした。それが関係するのかはわかりませんが、フィクションの漫画と比較しても仕方がないですよね。人間て複雑ですね。
プロフィール

楽園のペリ

Author:楽園のペリ
1975年、初来日の武道館でクイーンを体験、フレディのファンになる。長らくクイーンのことは忘れていたが、映画を見て思い出し、フレディについて研究するうち、ついにロンドンのガーデンロッジや、モントルーのクイーンスタジオまで行ってきました!

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